マスターレベルである「レベル13」まで成長し、装備品も万全の全員盗賊パーティー。「牢獄の鍵」を入手したことにより、「懲罰房」における探索可能な範囲も拡がった。
いよいよ次の階層へと進むべき段階だが、念のため「懲罰房」でのハクスラで、現在の戦闘能力を推し量る腕試しを行うことにする。
では、探索を開始する。
以前は苦戦していた「懲罰房」での戦闘だが、互角以上に戦えるようになっている。ならば、今まで避けてきた「拷問室」の扉に、覚悟を決めて突入しよう。
これまでの「懲罰房」の探索中に「上級拷問係」の一団は倒したことがある。……が、今回はさらに上級職である「拷問マスター」との戦いだ。後続の犬を「火炎瓶」で焼き払い、拷問係へは「暗殺者のナイフ」による直接攻撃で麻痺させる、というのが基本戦術だが、果たして実際に戦闘がどのように推移するかは神のみぞ知る。
拷問室の主から、氷雪呪文「メガフリーズ」の洗礼を浴びる。さすがにマスターと呼ばれるだけのことはある。
当初の戦術通り、上級拷問係を麻痺させることに成功するが、拷問マスターから呪文「トータルテラー」のお返しが。こちらのACが一気に悪化する。まさに恐怖だ。
敵方の強力な攻撃呪文の連発により、前衛2人のHP残量がワンヒットキルの水準まで低下した。これまで頑なに温存してきた「万能薬」(キュアオール)を投入するのはここだろう。
回復したのも束の間、麻痺攻撃を喰らってしまう。打撃の手数が減るのは非常に厳しい。
しかし、直後にエルフ盗賊の奇襲攻撃が見事に決まり、拷問マスターに引導を渡した。ここまで来れば勝ち確である。残りの拷問係×2は、いとも容易く上司の後を追っていった。
結果的に一人が麻痺したのみで死亡者ゼロであったが、どこかで一旦歯車が狂えば、そのまま全滅していてもおかしくない激戦だった。手持ちの「火炎瓶」ならびに「万能薬」の在庫がゼロになってしまったことが、それを証明している。
ひとまず受けた傷の回復を図り、在庫を使い切った「火炎瓶」を確保するため、「A級監獄」&「懲罰房」を巡回。結果として、「火炎瓶」×14、「万能薬」×4の収集に成功した。
準備万端整ったところで、次は「看守室」の攻略に挑もう。
戦術としては、援軍を呼ばれると面倒な看守達を「火炎瓶」で真っ先に焼殺。邪魔者が消えたら「看守長」に全力でアタック、でよいだろう。
あ!
ああっ!
ああああああああっっっっ!!!
時を戻そう(Ctrl+F1)
いや無理だろこれは。
何度か時を戻して再戦してみたが、毎回全滅。「看守長」が景気よく首を刎ねてくれる。しかも、武器による直接攻撃がほとんど通用しない。ACが低いのだろう。また、運良く当たった打撃も、そのダメージは一桁だ。
つまり、物理打撃で倒すのは困難極まるということだ。そうなると、「火炎瓶」(メガファイア)の連打が唯一の戦術となるわけだが、これまた高頻度でレジストされるのだ。
「火炎瓶」を山ほど用意し、全員で「看守長」に向けた一斉投擲を行えば、相手の首刎ねで全滅する前に何とか勝利できる可能性はある。……が、その成功率は敵のHP総量に左右される。見た目タフそうだしな。しかし、他に手段が無い以上、トレハン全集中で「火炎瓶」の収集に励むしか……
その時、悪魔が囁いた。
ふと脳裏に浮かび上がったのは、探索パーティー結成当初に「素早さ」と「運の強さ」の初期値が低すぎるという理由で参加を断固拒否され、毎日のように酒場で飲んだくれている「ドワーフ盗賊」の姿である。彼なら、この苦境を何とかしてくれるはずだ。
急ぎ地上へと舞い戻り、酒場の片隅で自棄酒を呷っていたドワーフ盗賊に声を掛ける。
以前は本当に済まなかった。ぜひとも仲間にならないか。
酔っ払いの説得なんぞ、地下監獄の修羅場を生き延びてきた歴戦の盗賊達にとっては、容易いものである。案の定、この勧誘話に乗ってきたドワーフ盗賊をパーティーへと組み入れ、攻略対象の「看守室」へと引き返す。
そして、扉を開き、未だ微酔い気分のドワーフ盗賊を中へと突き飛ばす。
驚愕の表情で振り返るドワーフ盗賊。だがその目に映るのは無常にも閉じられた鉄の扉。そして目の前には……
扉の向こう側から、ドワーフ盗賊の断末魔の悲鳴が聞こえる。そのまま暫く様子を窺い、頃合いを見て扉の奥へと侵入する。目に入るのは、誰もいない無人の看守室。
看守達は何処かへ去って行ったようだ。これで先へと進めるぞ。そしてドワーフ盗賊は……
ありがとうドワーフ盗賊。君の勇姿は忘れない。
ここは監獄都市。謀略裏切り上等の修羅の街である。己が生き延びるためなら、平然と他人を犠牲にする。そんな糞野郎が跋扈する悪徳の地。だが、武力も魔力も持たない弱者が生き延びるためには、手段は選んでいられない。それもまた真実である。